俺様社長はウブな許婚を愛しすぎる
「それじゃ千和、ここで」

「……うん、元気で」

ホテルを後にし最寄り駅の改札口でお互い向かい合う。

陸斗と会うのはこれで最後。そう思うと別れが惜しくもなる。

それは陸斗も同じなのか、お互いなかなか改札口を抜けようとせず、立ち尽くしたまま。

けれど先に別れの言葉を口にしたのは陸斗だった。

「千和……幸せになれよ」

そう言って彼の大きな手が、躊躇いがちに私の頭に触れた。

昔は乱暴に撫でられたのに今は優しく撫でるものだから、また泣きそうになる。

泣いて別れたくなんてない。

グッと涙を堪え笑顔で顔を上げた。

「陸斗もね。……幸せになって」

「あぁ」

陸斗に再会することができてよかった。

彼の幸せを知ることができて、自分の気持ちと向き合うことができた。そして大切なことを思い出させてくれた。
< 74 / 92 >

この作品をシェア

pagetop