俺様社長はウブな許婚を愛しすぎる
「ふん!」と鼻息荒くする和臣さんに、目を白黒させてしまう。

「ほ、本当に足を捻っただけなんですか? だって田中さん、あんなに慌てていて……」

再び尋ねると、いつの間にか背後に立っていた田中さんが言った。


「申し訳ありません。千和さんに嫌われたままの代表の相手をするのに、いい加減うんざりしておりまして……。多少大袈裟に演技させていただきました」

え、演技!?

いつもの如くサラリととんでもないことを言う田中さんに、面食らってしまう。

「さすが田中さんですね」

「あぁ、本当に。相変わらず食えん奴だ」

珍しく意見が合うふたりを余所に、田中さんは冷ややかな目を和臣さんに向けた。

「大川さんに大変失礼なことをしなくてはいけなかったのは、すべて代表のせいではありませんか。それに感謝頂きたいです。こうして代表が恋しがっていた大川さんを連れてきて差し上げたんですから」

淡々と抑揚のない声で言う田中さんに、和臣さんは「むっ」と声を詰まらせた。
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