たぶん、トクベツちがいな恋。


でも、それからも茶々からの連絡は、届かなかった。


30分どころじゃない。もう、1時間が経とうとしている。あまりにも遅すぎる。茶々の身に何かあったんじゃないかと、焦りが出てきた。

…そうだ。ここは、東京で。鎌倉じゃない。茶々がよく知る場所じゃない。


「…っ、茶々…」


気がついたら、通話ボタンを押していた。

雨は、1時間前よりもさらに強くなって、音も激しい。コール音も負けじと鳴り響いていたけど、不安になって、それを必死に耳に押し当てた。


…どうして。

どうして、茶々と約束をした日は、こうもうまくいかないんだろう。

俺が、ただ会いたいと願っている時ほど、茶々は俺の前に現れてはくれない。そう、思ってしまう。


まだ、約束したのだって、たった2回なのに。



雨の重さで、傘がかすかに上下に揺れていた。足の先の感覚はない。それでも、グッと力を入れる。

何度も何度も、コール音が重なっていくのを聞いていると、果てしなく続いたその先で、小さく声が聞こえてきた。



『……っ、はい…』

「…! 茶々…!?」



それは、茶々本人の声だった。思わず身を乗り出して、その存在を確かめる。

よかった、出てくれた。ちゃんといた。


「茶々、お前今、どこにいんの?」


雨の音が、ひどい。でも、茶々の周りの音も、騒がしかった。



「…茶々? お前今、どこに…」

『ごめん、近海。 今、ちょっと…、ここを離れられなくて』

「はっ?」


離れられない? どこを? 試験場?



『…右京くんの、体調が悪いの。試験前から調子悪かったんだけど、終わって会った時に、悪化して…』



「……」


頭を、何かで打たれたような感覚がしたのは、この言葉によるものだったのか。


それとも、今までのことが重なって重なって、積み重なっていった黒い何かによるものだったのか。


…正直、分からなかった。




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