たぶん、トクベツちがいな恋。

・・・

信じられないことが突然起こると、人間の身体は固まってしまうということを、初めて知った。


「……茶々…?」


しんと静まった、玄関。冷えピタが完全に剥がれて、床へと力なく落ちていく音が聞こえた。

それを確認するように視線を下に落とす。黒い艶のある髪が、すぐそばにあることが分かった。
胸のあたり、だらしのない俺の部屋着を、ぎゅっと掴んでいる小さな手も。

これは、夢なんじゃないかと思うくらい、信じられなくて。


…どうして、茶々が俺の家にいるのか。

今まで、俺の家に来たことってあったっけ。住所…教えてない。大学の近くだってことは知っているんだろうけど…。でも。


「…」

あぁ、ダメだ。やっぱり、頭がボーっとする。うまく考えが回らない。


「と……、とりあえず、リビングの方に来いよ。ここじゃ、寒いし」

「…」


何も話さないで黙っている彼女の肩を持って、玄関を離れた。

大学生になって、珠理以外の人間を入れたことのなかったこのアパートに、茶々がいることは有り得ないくらい異常なこと。

女なんか絶対入れなかったのに、まさかの茶々が…。なんでだよ。



ぐるぐると、色々なことを考えながらも、リビングに連れて来た。追い出すわけにもいかないし。

「適当に座れば」と言って、俺はベッドに腰掛ける。それを聞いて茶々は、黙って俺に向かい合うように座った。

…さっき、珠理が座っていた場所だ。


その間も、彼女は俺の方を見ることはせず、つむじだけをずっとこちらに向けていた。

「…」

「…」


…気まずい。気まずすぎる。つーか、なんで茶々は今、俺のところにいるのか。何の用で? この間の、こと?


「…っ」


急に、ビビビと緊張が走った。足から頭のてっぺんまで、電気が走るように。

…一昨日のことを、思い出してしまったから。


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