たぶん、トクベツちがいな恋。
「ちょ…、何してるの…っ」
「……」
「近海!!」
腕の中で騒ぐ茶々の右手を後ろから覆った。おたまを持っていた手は、その瞬間に大人しくなる。
反射的に、少しだけ俺の方を見た茶々の首に腕を回した。
そのまま、ぎゅっと引き寄せる。
「ちょ……」
「…」
あぁ、知ってる。 さっきも、こんな風に腕の中にいたんだ。確かに。
「…近海…っ、なにして…」
「ごめん。 なんか色々、追いつかなくて」
「……っ」
「夢だったらどーしよって、思って。こわくなってた」
茶々のにおい。まだちゃんと、覚えていない。
だって、すぐに信じろって言われても無理な話。俺にとってコイツは、ずっと手の届かない存在で。
…こんな風に、ふれることなんてできないはずだったのに。
すきだって、ほんとうに?
ほんとうに、俺がいいって思った?
俺のこと、すきだって思った?
首の後ろに回した腕を少しだけ緩める。それを合図に、彼女との間に少しだけ隙間ができた。
鼻先に茶々の前髪がふれて。より一層、彼女が近くにいることを感じる。
キッと向けられる大きな目。いつものように少し怒っている。当たり前か。料理の邪魔をしてしまったのだから。
「…ごめん」
グツグツと煮立っていた鍋の火を消した。卵が、かけられたままで固まっているのが見えた。
…やっべー、本気で怒らせたな。
なんとなく、茶々の方を見るのがこわくて、目をそらした。でも、それを遮るように、頭にかかっていたタオルごと、顔を引き寄せられる。
「…ちゃ、」
「まだ濡れてるじゃない!!」
「へ…? うわっ」
怒った声が聞こえてきたと思ったら、そのままガシガシと、濡れた頭をタオルで拭かれた。髪の隙間から、必死で背伸びをしている足先が見えた。
「こーいうの、ちゃんとしないから風邪引いちゃうんでしょう!? ちゃんとしなさいよ!茶々よりも歳上のくせに!」
「ちょ、いてーって…、激し…」
「だいたいねえ! 料理してるのに後ろから突然抱きつくってどうなの!危ないでしょ!? お皿に盛るくらいさせなさいよ! 卵も固まっちゃったし、最悪!!」
「…ごめ、」
めちゃくちゃ怒っている。それは、タオル越しに伝わってくる、茶々の指先に入っている力加減で分かった。