たぶん、トクベツちがいな恋。


俺は、彼女のことを怒らせる天才だと思う。
でも、ほんとうにちょっと、確認しておきたかっただけなんだよ。

…なんてことを言い訳にしたら、また「ふざけるな」と怒られるに決まってるな。


「あのねぇ!」

「…はい、」


茶々の、より一層高い声が響く。


「夢だったら、茶々はもうとっくに、近海が目覚める前に帰ってるから! いなくなってるから!! こんな風に、近海の目が覚めるくらいの時間、わざわざ考えて料理なんか作らないから!!」

「…」

「濡れた髪で出てこようが、すきじゃなかったら風邪ひくかもとか、そんな心配なんかしないの! 夢じゃないから、ちゃんと安心して! 分かった!?」

「…」


さっきまで、ものすごい強さで頭を擦っていた手のひらが、弱々しく落ちていった。

逆に、カタカタと震えているそれは、俺の頰に、やさしくふれて。


「…ん、分かった。伝わった」

「…あっそ! それはよかったわ」

「…」


その代わり、彼女の顔は、さっきよりも怒りを増したのかと思うほど、真っ赤で。


——あぁ、茶々の言葉は、ほんとうだったんだ。


…そう、確かに思えた。




「…ほんとごめん。こんなに引っ付いてたら風邪うつすな」


真っ赤っかの顔は、見ないふり。からかうと、またきっと怒るから。


「何を今更。うつるなら、もうとっくにうつってるわよ。それに、人間の身体なんて、そんなヤワじゃないわ」

「…ふーん」


ブツブツと、小言を言いながらお皿にお粥を盛り付けてくれた茶々。ホカホカと白い湯気を上げているそれは、今まで見てきた中で、一番おいしそうな料理に見えた。

リビングに向かって、テーブルの前に座る。「どうぞ」と差し出された木のスプーンでそれを頬張ると、ものすごくやさしい味がした。


「どう? 塩加減」

「…うまい。何杯でもいけそう」

「そんなにおかわりないんだけど…」


目を細めて俺の方を見る茶々。呆れた顔。これからも俺は、こんな顔を向け続けられるんだろうなと、容易に想像がつく。

…でも、それでもいい。何にも変わらなくていい。


こんなふうに、ちゃんとそばにいれば。



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