たぶん、トクベツちがいな恋。


・・・


「…なあ、本当に駅まで行かなくていーの? 心配なんだけど」

「ハァ!? 何いってんの! 外なんか出たらまた悪化するでしょ!?」

「え〜…」


お粥も食べ終わって、食器まで片付けてくれた茶々は、そそくさと帰りの準備を始めていた。
夜までに帰ればいいって言ってはいたけど…、ここから鎌倉までどれだけかかるか分かってんのかな。

つーか、真冬だし。もう暗いし!


「ダメだって、お前連れ去られたらどーすんの? 俺が責任持てねーよ」


玄関先で、なかなか折り合いのつかない言い合い。茶々も一度決めたら曲げない性格だから、何度俺が行くって言っても許してくれないのは目に見えているが。

それでも、茶々のことを想っている側としては、そうもいかないというか。


「だからー!暗いって言ってもまだ5時だし!駅まで徒歩5分くらいだし!平気だってば! 塾行ってた時なんてもっと暗かったんだから!」

「……でも、ここは東京だし」

「でもじゃない! いーから寝てるの!」

「…」


べし、と、額を叩かれた。なかなか折れないのは俺も同じ。だって心配だし。

…コイツ、自分がすげー可愛いってこと、分かってんのかな、本当に。


「…じゃあ、駅に着いたら連絡して。絶対に」

「はいはい、わかったわかった」

「5分経って来なかったら、探しに行く」

「はいはい…って、過保護!!」

「……過保護にもなるだろ」


トントンと、ローファーを履きながら、茶々はまた呆れた顔をこちらに向けた。マフラーに隠れて、顔は半分くらい見えてないけど。


…でも、なんだか名残惜しい。そーいう意味でも、送るって言ってんだけどな。



「…次、会えるのは合格発表の日だな」


帰る準備万端な茶々を前に、確認する。でも、じっと立って、俺の話を聞いてくれた。


「…うん。1週間後くらいだよ」

「その前に、卒業式あんのか。おめでとう」

「うん。早すぎだけど」


1週間。たったそれだけなのに、今はまだまだ先のように感じるのは、どうしてだろう。


…東京と鎌倉なんて、距離が遠すぎる。


そんな風に考えてしまうのは、どうしてだろう。



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