たぶん、トクベツちがいな恋。
手元にあったスマホが震えた。映し出された名前にハッとして耳にあてる。茶々の手を、引いていない方の手。
すると、静かな冬の空気の中に、騒がしい声たちが、流れ込んできて。
『近海!? ちゃ、茶々はそこにいるの!? 大学受かったって!!本当に受かったって!?おめでとう〜〜!!』
「おっまえ…、ウルセェ。しかもそれじゃ俺しか聞いてねーから」
珠理と、めごちゃん。そして瀬名ちゃんも到着したらしい。みんなで鎌倉にいるってことは、もうすでに準備を始めてくれているのか。
ほらよ、と茶々にスマホを渡す。初めから聴こえていたらしい声は、さらに大きくなって彼女の元に届いたことだろう。
『茶々ちゃん!!受かったんだね、おめでとう〜〜!!ていうか、珠理から聞いたけど色々とおめでとう……!!』
『茶々!? アンタ、近海と付き合うことにしたって…うっ、ほんと…、ほんとに…』
『ちょっとミノくん、なんで泣いてんの?』
『茶々ちゃん!今日あったら事情聴取だから!!覚悟しといてね!!』
…本当に、迷惑なほどに、大きい。呆れた顔で耳に当てていた茶々は、もう言葉も出ないようで。
「……ありがとう」
そう、ぶっきらぼうに呟いたあとに、そのまま俺にスマホを突っ返してきた。
…でも、ちゃんと茶々が嬉しいんだってことも、喜んでいるってことも、伝わってる。たぶん、俺だけじゃなくて、こいつらにも伝わってる。
「つーことで、これから連れて帰るから。準備のほどよろしくお願いいたしますー」
『はーい!任せといて♡ それまではおふたりでごゆっくり〜♡』
「はいはい、ドーモ」
たくさんの、祝福と。少しだけ変わったカタチ。
「…んじゃ、行くか」
改めて、手を差し出した。少しだけ戸惑った様子で、俺の手のひらを見つめていた茶々は、はぁと小さく息を吐いて、ちょこんと手を乗せた。
「…なあ、茶々」
「なに」
「…髪、ひとつにしねーの? 俺、あれ結構すきだったんだけど」
「…駅に着いたらね」
桜の蕾が眼を覚ますまで、あと少し。
【おわり】