たぶん、トクベツちがいな恋。
「お前、腹減ってねーの?」
早速、勉強道具を広げだす茶々に問いかける。
「別に。来る前に少し食べてきたし、ケーキだって頼んだし」
「ふーん」
俺も昼飯済まして来れば良かったな。まぁ別に食べなくても平気だけど。
「それよりも近海、さっきのケーキとカプチーノのお金!まだ払ってないんだけど、ちょっとレシート見せてくれない?」
空きっ腹にコーヒーを送り込んでいると、茶々は再び鞄からピンク色の財布を取り出して言った。その必死そうな顔に、思わず笑いそうになる。
「いーよ、そのくらい。気にすんな」
「は!?だめだよ!!ちゃんと自分の分は払うもん!」
「いいって。ちゃんとバイトしてっから、そのくらい奢る余裕はあるよ」
「……」
高校生の、しかも受験生に払わせるなんてこと、したくなかったし。それに、俺がそうしてあげたかった。少しくらい、かっこつけさせて欲しかった。
でも茶々は、少し不満そうな顔をしてうつむいた。その表情を、俺は見逃さなかった。
「…奢られるの、いや?」
コクン、と、上下に揺れる頭。
「ごめんて。でも本当にいいから。模試頑張ったご褒美。だったら納得じゃね?」
「…」
茶々はまた、黙り込んだ。しんと静まった空気の中、遠くから電車の音が聞こえる。
そんなに嫌なのなら、別に無理しなくていい。そう言えばいいのに、今更引き下がるのも変な気がしてやめた。
茶々の持っていた、華奢なシャープペンシルの先が震えて。
その次の瞬間には、大きくて綺麗な目が、俺を捉えていた。