たぶん、トクベツちがいな恋。


「…なんなの。急に大人ぶって」


桜色の、くちびるが小さく動く。低い声。茶々の、いつものトーン。それなのにどこか、違う気がして。


「…大人ぶってなんかねーよ。俺がしたいから、そうしてるだけ」

「……」

「…じゃあ、なんか飴とか持ってない?俺、小腹減ってんの」


手のひらを、茶々の前に差し出した。一瞬、キッと俺を睨んだ目は、そのまま逸らされて。気がついたら、リンゴ味ののど飴が、手のひらに乗っかっていた。

ほんとに持ってたんだ。飴。


「…ふ、ありがとう。これでいーよ」

「…あっそ。好きにすれば」


飴を開けて、口に放り込んだ。甘い。

そのまま、問題を解き始めた茶々をとなりで見守る。今日は古典を勉強するらしい。

茶々は俺と違って文系だから、古典は得意なはずなのに。今日はそんな気分なのか。どうせなら、数学やればいいのに。


「今日の問題の出典は何?」

「…源氏物語」

「ウワ、難しいやつじゃねーかよ。俺分かるかな」


源氏物語は、1番ニガテ。人間関係が複雑過ぎてよく分からない。平安時代いちの大作ってのは納得できるけど、文章がいちいち難しい。何が書かれてあるのか、考えるのがめんどくさい。


「桐壺の更衣のあたりとか、若紫あたりなら分かるんだけどな。前に漫画で読んだ」

「そんな有名なところ出るわけないでしょ。誰だって解けちゃうわ」

「そうだよな」


それでも、文章内に色々と書き込みながら、茶々はスラスラと問題を解いていく。すごい。複雑な文法も、ちゃんと理解してんじゃん。


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