たぶん、トクベツちがいな恋。


それから、珠理はお母さんと2人になった。大嫌いなお父さんとはおさらばできたと、一時期少し明るかった。

それでも、やっぱり苦しい時期は続いて、たまに傷ついては、俺の家に来た。

…珠理が、今の珠理になったのも、その暗い過去の中にヒミツが隠されている。と、俺は思っている。

でも、どんな珠理でも、俺は嫌いになんかなれなかったし、むしろ一緒にいて心地よかった。

かっこいい人間だと思う。初めは、あんなに暗くて、俺ばっか話していたのに、今は逆。

珠理がいないと楽しくないのは俺の方だし、引っ張られているのも、話を聞いているのも俺。

俺の世界に珠理を巻き込んだつもりが、いつの間にか、俺の世界をつくりあげる人になっていた。

それが、美濃 珠理という人間だ。


『…近海は、アタシのヒーローみたいな存在だもの。近海がいなかったら、アタシはこんなに堂々と生きていないし、生きていたかも分からない』


…ある日、いつものように家から逃げて来た珠理が言った言葉。

珠理は何気なく言ったのかもしれない。愚痴のついでに言ったのかもしれない。でも、俺の胸にグサリと突き刺さって、それは未だに抜けていない。

珠理にとって、必要不可欠な存在になれていた。ちゃんと、珠理の生きる理由になれていた。

そう言ってもらえたような気がして、不覚にも、泣きそうになったのを覚えている。


『近海、ありがとう。救ってくれてありがとう』


背中に乗っかって来た重みを、俺は忘れない。


この日、改めて決めたんだ。いつだったかさえ、もう、覚えてなんかないけど。


珠理は、俺のトクベツな存在で。

ずっと、守っていきたいって、そう思った。



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