たぶん、トクベツちがいな恋。


『…近海が…』

「ん?」

一度叫んだら振り切れたのか、そこからは弱々しい声に変わった。
さっきから、近海が近海がって。なんなんだ。いつも俺のせいにしやがって。


『…近海が、怒ってたから…』

「…」

語尾に連れて、弱くなっていく声。消えかけている。もごもごと、口の中に含まれているような声。


「…俺が怒ってたから、何?」

『近海が怒ってたから、茶々も怒った!』

「ちげーよ。先にお前が怒ったんだろ。紀伊さんとのこと誤解して」

『…! 怒ってない!』

「怒ってただろ。だから喧嘩になったんだろ。俺たち」


ほんっと、認めようとしない。俺も、負けてないけど。


「…いーよ。俺もウキョウくんとのこと怒っちゃったし。おあいこね」

『…』

ハァ、と息を吐いた。それを聞いたのか、茶々はしばらく黙っていたけど、少し間を置いた後に、さっきよりも冷静な声で、聞いてきた。


『…紀伊さんって人とは、本当に何もなかったの?』

「は?何かって?」

『…っだから、付き合うとか…、付き合うとか、付き合うとか…』

「付き合うばっかじゃねーか」


思わず、笑いが出た。まだ紀伊さんとのことを疑っている。昨日、あれだけ否定したのに。


「ねーよ。本当に、ただのバイト仲間」

『………あっそ』

「あっ、まだ疑ってんな?」

『別に。疑ってない』


ボソボソと呟くように、茶々は言葉を紡いでいた。あれだけ怒っていたのに、イライラしていたのに、彼女の声を聞いていたら、それも和らいだ。

…結局、俺は彼女に対して甘いんだ。


< 98 / 166 >

この作品をシェア

pagetop