たぶん、トクベツちがいな恋。
『…近海が…』
「ん?」
一度叫んだら振り切れたのか、そこからは弱々しい声に変わった。
さっきから、近海が近海がって。なんなんだ。いつも俺のせいにしやがって。
『…近海が、怒ってたから…』
「…」
語尾に連れて、弱くなっていく声。消えかけている。もごもごと、口の中に含まれているような声。
「…俺が怒ってたから、何?」
『近海が怒ってたから、茶々も怒った!』
「ちげーよ。先にお前が怒ったんだろ。紀伊さんとのこと誤解して」
『…! 怒ってない!』
「怒ってただろ。だから喧嘩になったんだろ。俺たち」
ほんっと、認めようとしない。俺も、負けてないけど。
「…いーよ。俺もウキョウくんとのこと怒っちゃったし。おあいこね」
『…』
ハァ、と息を吐いた。それを聞いたのか、茶々はしばらく黙っていたけど、少し間を置いた後に、さっきよりも冷静な声で、聞いてきた。
『…紀伊さんって人とは、本当に何もなかったの?』
「は?何かって?」
『…っだから、付き合うとか…、付き合うとか、付き合うとか…』
「付き合うばっかじゃねーか」
思わず、笑いが出た。まだ紀伊さんとのことを疑っている。昨日、あれだけ否定したのに。
「ねーよ。本当に、ただのバイト仲間」
『………あっそ』
「あっ、まだ疑ってんな?」
『別に。疑ってない』
ボソボソと呟くように、茶々は言葉を紡いでいた。あれだけ怒っていたのに、イライラしていたのに、彼女の声を聞いていたら、それも和らいだ。
…結局、俺は彼女に対して甘いんだ。