見た目通りには行かない
「いい女だ」
尊が呟いた
確かにいい女だ
稽古と言われて目を輝かせて「あの道場使っていいんですか?」なんて言われたら断れるはずがない
社長である尊との付き合いで来たなんて忘れてたのではないだろうか
稽古が始まって一時間
川口麗は俺たちに一度も目を向けることなく男を投げ飛ばしていた
しかも、なんで柔道着持ってるんだか
いつもと違う可愛い声が聞こえていたのだろう
仕事を終えた他の組員達も何事かと帰って来て道場に集まっていた
実は会長である組長の尊の父親が柔道をやっていたことがあり組員も柔道をするやつが多い
川口麗が入ってすぐに魅入っていた建物は道場だった
川口麗とわかれば他の組員も稽古をつけてくれとどんどん増えてもう一時間だ
尊は優しい視線を向けていた
こんな、尊は初めてだ
「休憩にしましょう」
可愛い声で川口麗がそういうと今度は川口の周りに組員が集まり柔道談義
組員も楽しそうだ
「あの技は……」とか俺達にはちんぷんかんぷんだ
「尊も柔道始めれば?」
揶揄うように言えば笑って「お前もな」と言われた
尊も俺も柔道には全く興味なかったからな
「ギャップがすげえな」
俺がそう言うと尊はまた笑った
あんな美人で可愛いのに男をぽいぽい投げ飛ばすんだからな
「あの時も俺らが助けなくても大丈夫だったんじゃねぇか?」
あのチンピラが投げられる姿を想像して俺も笑えた