見た目通りには行かない
やっと聞けた本音



カツカツと静かな廊下にヒールの音が響いている

この廊下を歩くのはあの日以来


社長である尊さんに手を差し出した日
お付き合いが始まった日


今日はなんだか一日が長い

食堂でみどりさんと居るところに尊さんが来て、私はみどりさんとすぐに立ち去った
それなのに、課に戻った私に部長から社長室に行くように言われた

部長と周りのみんなの視線が怖くて俯いてしまう
完全にプライベートだよね?
私にだって仕事はあるし、公私混同はよくない
みんなに顔向けできないよ



「私たちの為にも麗ちゃんお願いね!」


みどりさんからの言葉に顔を上げるとニヤニヤと笑う部長とみどりさん
みんなも、何だか笑いを堪えているような……


「麗ちゃん、気にしなくていいから、社長のことお願いね!」



そう言ってみどりさんに背中を押されて今がある


ヒールの音を聞きながらだんだん腹が立ってきた
そうだよ!
今は仕事中だよね?
なのに、絶対この呼び出しは仕事じゃないよね?


社長室の扉の前で一度大きく深呼吸する

意を決してノックすればいつもの「どうぞ」はなくカチャッと扉が開いた



「幸輝さん」



シッと人差し指を唇にあてる
そんな姿も絵になるイケメンだと思った



「社長はいま、タバコ」

「そうですか……」



実は社長室は禁煙らしい
来客でタバコ嫌いな方もいらっしゃるからとか
他所の事は知らないが小さな気遣いだけど大事な事だと思う


「麗ちゃん、噂聞いた?」

「あ、……はい」

幸輝さんも知ってるの?
って言うことは、尊さんも知ってるのかな?
尊さんは噂を聞いてどう思ったんだろう




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