見た目通りには行かない
食事に行った男
「ごめんなさい」
深々と頭を下げる瞬間
ふわりと揺れる髪から優しい香りが漂ってくる
人工的な臭いとは違うこの香りが好きだった
いい歳して、30歳過ぎてから出会った年下の女性
「好き」なんて感情がまだあることを教えられた
「彼氏出来た?」
前に会った時よりも少し雰囲気が違った
そう聞くと少し困った様に眉を下げた
そんな姿もまた、魅力的だと思う
たった今、振られたばっかりなのに
「違うの?だったらまだ俺にもチャンスあるのかな?」
久しぶりに連れ出された合コンで出会った彼女
一度だけ食事に行って、その後忙しくて二度目の誘いが今日だった
お昼からカフェで食事して、その後何故だか急に思いを伝えてしまった
予定には無かったのに
彼女のいつもと違う雰囲気に雄の勘が働いたのか
はたまた、久しぶりの彼女に思いが溢れたのか
年甲斐もなく、両者だろう
一度目と二度目はそんなに日にちも経っていないのに彼女の心を奪う男が現れたのだろうか
「あ、いえ、」「そんなものない」
彼女の否定と同時に響く低い声
低い声の正体は、これまたいい男だった
そして、俺はよく知った男だった
きっと、向こうは俺のこと知らないだろうが
自分が勤めている商社との取引があったはずだ
面識とまでは行かないが俺は何度か見たことがあった
彼が来社すると聞き付けた女性社員がその時はいつも以上に色めき立っていた