“あなたを愛しています”




私の言葉に、司君は苦い顔をした。

だけど、少しだけ嬉しそうな顔だった。




今だから思う。

司君がフラワーデザイナーとして生きているのは、生け花の世界から離れられなかったから。

ごく稀に関西弁を使うのは、桜庭家を捨てられなかったから。




「それじゃ、あの父親が大泣きして土下座して謝ったら、考えてあげようかなぁ」





司と桜庭家の溝は、私の想像以上に深いのかもしれない。

その溝もいつか埋まることを、私は願っている。





「その時は花奈ちゃんも、京都についてきてくれる?」




大きく頷く。




「花奈ちゃんが二度と嫌な思いをしないように、俺が花奈ちゃんを守るから」




その言葉が何よりも嬉しい。

きっと彼の実家で暮らすことは、庶民の私にとっては茨の道だろう。

だが、司君と一緒なら、その道だって歩ける気がした。


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