“あなたを愛しています”
【番外編②】 チャノキ
ー司ー
今の俺は庶民的だ。
庶民の中でも、極めて庶民に近いと思っている。
給料はもちろん出来高だが、それなりに稼いでいる。
今の給料で贅沢することは可能だが……
庶民的な生活をしているのも、大学時代のあの経験があるからだろう。
かつての俺は、文字通りおぼっちゃまだっただろう。
高校生にして、お小遣い月二十万円。
食事はフルコース。
おやつは高級銘菓。
勉強のほか、華道はもちろん、茶道に書道、楽器に語学。
絵画や芸術の歴史うんぬん、英才教育を施されていた。
ゴキブリなんて見たことはなかったし、稽古さえすれば高級料理が食べられる。
そんな世界だったが……
花奈ちゃんも知る通り、親からの束縛に疲れ果てて東京へ出たのだ。