ほんもの。
缶チューハイからどんどん炭酸が抜けて行く。
「何で分かった?」
「女の勘」
「……そうか」
「今、何か言いたそうだったけど、何?」
「なんでもない」
安藤が笑っている。
「実の父親、俺が幼い頃に他の女と心中したらしい」
その頃は全然知らなくて、どっかの家族がいる女と一緒に死んだって、母親から聞いたときは驚いたな。
安藤は暗記した言葉を覚えるみたいにスラスラと話す。
ずっと、誰かに話す練習をしてたみたいに。
「俺が憧れたのは自分の父親じゃなくて、他人だったことにも」
私は缶へ視線を下げた。