ほんもの。
泡は弾けて、消える。
「大変だったね」
「母親がな。旅館の仕事を全部仕切ることになって、俺も育てないといけなくなって」
「違うよ。それを知った安藤が」
安藤はチューハイを呷って、缶を置く。
顔が近付いて、口づけが落とされる。掛け衿を掴むと、その手を安藤の首の後ろに回された。
「ずっと探してた」
呟くように聞こえる声。
「ほんもの」
雨が降っている。
小雨すぎて、水たまりが揺れない。傘は必要ない。
前を誰かが歩いている。
あれは、安藤だ。