君は太陽
「そこまでわかってるなら、何で言わないの」

「……結婚、ってなったら、松嶋くんだけの話じゃないでしょう?」

「結衣ちゃん……」

「松嶋くんね、帰ったら話したいことがあるって言ってたの。私の左手の薬指に軽くキスをして。うぬぼれからも知れないけど、それってプロポーズなのかなって」

「そうね。私が結衣ちゃんでもそう思うと思うな」

「松嶋くんがご両親に私のことを話したとき、どう思うんだろうって。親戚の人たちにどう思われるんだろうって。それを考えたら、話すのが怖いの」

視界がにじむのと同時に、頬を涙がつたう感覚を感じた。

瑞穂ちゃんは黙ったまま、私の手を握りしめてくれる。

「ねぇ、瑞穂ちゃん」

「うん?」

「松嶋くんは、私のお父さんと同じ思いをすることになるのかな。私は、お母さんと同じ決断をすることになるのかな」

しばらくの沈黙の後、瑞穂ちゃんがゆっくりと口を開いた。

「ごめん、結衣ちゃん。私は話を聞いてあげることしかできない。結衣ちゃんの疑問を解決することもできない。でもね、これだけは言えるよ。やっぱりちゃんと、話さないと」

「瑞穂ちゃん」

「どういう結果になっても後悔しないように。結衣ちゃんも、松嶋くんも。ふたりともが後悔しないようにしっかり話し合うべきだと思うな」

ハンカチを手にした瑞穂ちゃんは、私の頬を涙を軽く押さえるとニッコリ微笑んだ。

「大丈夫。結衣ちゃんはあの俊美さんの娘だよ。だから、きっと大丈夫」

俊美さん、とは私の母のこと。

「俊美さん、いつも言ってた。『結衣には幸せになってほしい』って。私、松嶋くんと一緒にいる結衣ちゃんをみるたびに思うんだ。ああ、俊美さんに結衣ちゃんのこの姿を見せたかったなあって」

「お母さんに?」

「うん。松嶋くんに見せる結衣ちゃんの顔は、本当に幸せそうだから」

驚きで目を丸くする私を見て、瑞穂ちゃんが笑う。

「何そんなに驚いているの」

「え、私、幸せそう?」

「自覚なかったの? すっごい幸せそうに笑ってるよ、結衣ちゃん」

改めて言われると、なんだか恥ずかしくなってくる。

恥ずかしさが上回り、涙もすっかり止まってしまった私の肩を、瑞穂ちゃんが軽く叩く。

「幸せつかむために、ちょっとは頑張んなさい」

< 34 / 76 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop