君は太陽
「私、これからも松嶋くんと、一緒にいられるかな」

「それは松嶋くんに聞きなさいよ」

「はい」

私が大きくうなずくと、瑞穂ちゃんが満面の笑みを向けてくれた。






その日の夕方。終業のチャイムが鳴り、私はパソコンの電源を落とす。

昼休みに瑞穂ちゃんと話したおかげで、少し気分が楽になったせいか、午後からは仕事もよくはかどった。

今頃松嶋くんは、何をしてるんだろう?

アメリカは時差があるから、今から仕事が始まるくらいかな。

そんなことを思いながら受付の前を通り過ぎようとすると、ひとりの女性が受付に立っていた。

「松嶋蒼大はいますか?」

さっきまで考えていた松嶋くんの名前が聞こえてきたので、思わず足を止める。

少し茶色の髪をふんわり巻いた、柔らかいクリーム色のスーツに身を包んだ女性が、松嶋くんの名前を告げていた。

歳は私よりも若い感じ。二十代前半といったところだろうか。

二重の瞳がキラキラとしていて、とても可愛らしい印象を受ける。

「松嶋は、社長の出張に同行しております」

「あ、そうですか。じゃあ、仕方ないですね」

受付の社員がそう告げると、女性はニッコリ笑ってその場を立ち去ろうとした。

その後ろ姿に、受付の社員が声を掛けた。

「あの。松嶋とはどのような関係でしょうか?」

途端、女性の顔から笑顔が消えた。

少し離れた場所にいる私でも感じる、怒りのオーラ。

テクテク、と離れかけていた受付へと戻った彼女は、見惚れるくらいの美しい笑顔で告げたのだった。

「彼の婚約者ですけど、何か?」

「いえ、なんでもありません」

受付の社員は顔を真っ赤にして俯いた。

そして、颯爽と立ち去る彼女が、私の横をスッと過ぎ去っていく。

通りすがりに、華やかで優しい香りが鼻を抜けていった。

気品あふれるあの女性にぴったりの香り。

松嶋くんの隣に並ぶ姿を想像する。ああ、とてもしっくりいく。

私なんかよりも、数倍。

それからのことは、あまり覚えていない。

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