君は太陽
「とりあえず昨日から一週間、有休消化って名目で休みを取らせているわ。だから、退職についても保留。必ず戻ってくるようにとは言っているんだけど」

言葉を詰まらせた小野山課長は、スーツのポケットから一台のスマートフォンを取り出した。

見覚えのあるスマホケースに、俺は愕然とする。

「それ、結衣のスマホですよね……?」

「置いて行ったのよ、意図的に。だから今、あの子がどこにいるのかもわからないし、戻ってくるまでは連絡が取れないの」

「頑なな……」

「お願い、松嶋くん。結衣ちゃんを連れ戻して」

俺は小野山課長を真っ直ぐ見つめてうなずいた。

「もちろんです。絶対に結衣を探して、連れて帰ってきます」

「頼むわよ。うちの両親、結衣ちゃんが二日家を空けてるだけなのに、もうソワソワしてて大変なのよ」

結衣が俺を家に上げない理由の一つに小野山課長のご両親の過保護っぷりというのがあったけれど、それはあながち間違いではなさそうだ。

心底疲れた表情の小野山課長に同情しつつも、これから始まる大事なミッションに向けて、俺は結衣探しの対策をすでに頭の中で練り始めていた。






「大口叩いたけど、何も浮かばない……」

「大丈夫か?」

会社近くの飲食店で、机に突っ伏す俺の頭を、原がポン、と叩く。

小野山課長から話を聞き、これから結衣を探すための対策を練ろうと会社を出ようとしたとき、偶然原と入り口で出くわした。

少し早めの昼食を摂るという原と一緒に会社を出て、飲食店に入った途端、『お前、大丈夫か?』と早速結衣の心配をされた。

結衣の出生の話は伏せ、『噂のせいで結衣から別れを告げられ、話も出来ないまま逃げられている』ことを説明して今に至る。

「きょんちゃんや小春っちの家にいるってことは考えにくいよなあ。ふたりとも、子どもも小さいし」

現在産休中の同期ふたりのことは俺も考えたが、原の言う通りそこにいることはないだろう。

「そもそも、そのふたりに今の松嶋の噂を聞かすこともないだろうな」

「知ってたら、今頃すごい勢いで俺に文句言いに来るって、あのふたりなら」

結衣のことを大事に思っているあのふたりのことだ。ギャンギャン言ってくるだろう。

「いつもなら恐怖におびえるところだけど、今回ばかりはなんでいないんだよって思うよ……」

< 44 / 76 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop