君は太陽
「だよなあ。とりあえずどっちかいたら、ユイユイ遠くに行く前になんとなかったかも知れないもんなあ」

「……笑うなよ」

「ごめん、ごめん。でも、ホントにどこに行ったかわかんないの?」

俺は腕を組み、天を仰ぐ。

「俺が旅行に誘っても、興味がないって言われて行ったことないし。テレビとか見てて『この世界遺産一度見てみたいんだ』的なことも言われたことないんだよ」

「手がかりゼロじゃん。そんなんで大丈夫か?」

「大丈夫、と思いたい……」

自分で言ってて不安になってくる。

ハア、と深いため息をついた俺を見て、原がクスリと笑った。

「今の顔、お前のファンが見たら目を丸くするだろうなあ。王子のオーラがないって大騒ぎするぞ」

「どうとでも言え。俺は結衣以外の女に興味はない」

「それは知ってる。じゃあ、松嶋。俺は仕事あるから出るけど、何かあればいつでも連絡くれよ。協力できることはするから」

「助かる」

有り難い同期の言葉に素直にうなずくと、原も大きくうなずいてくれた。

原から遅れること数分。俺も店から出て、とりあえずは家に帰って考えようと歩道を歩いていると、車のクラクションが軽く鳴らされ、タクシーが横づけされた。

誰だろう? そう思っていると、後部座席の窓が下がり、珍しい人が顔を出した。

「久しぶり、蒼大くん。元気だったか?」

「逢沢さん? お久しぶりです。どうしたんですか、こんなところで」

「仕事でこっちに来ててね。そういえば蒼大くんもこっちにいるんだよなあって思っていたら、ちょうど本人を見かけたから声を掛けてしまったよ」

そう言って優しく笑ってくれるこの男性は、逢沢自動車の社長であり、俺の母とは大学時代の同級生で、父とは若い頃経営塾で学んだ仲間の逢沢さんだ。

両親共に知り合いということもあり、俺も小さい頃から親しくさせてもらっている。

父には言えない思春期の悩みごとも逢沢さんには話したりもしていて、両親と同年代とはいえ、俺の中では歳の離れたお兄さんのような人だ。

「今から東京に帰るんですか?」

「ああ、その予定だったけど、せっかくだから蒼大くんと少し話そうかな」

逢沢さんは、そのままタクシーの支払いをすませ、降りてきた。

「何かあったのかい? いつもより表情が硬いけど」

相変わらず察しのいい逢沢さんに苦笑する。

「逢沢さんってホント、勘が鋭いですよね」

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