君は太陽
「ああ、逢沢さんが、結衣の父親だよ」

頭の中が真っ白になる。

まさか、本当に松嶋くんの知り合いに、私の父親がいるなんて。

震える手を、松嶋くんが強く握りしめてくれる。

「結衣ちゃん。私の話を聞いてもらえるかな?」

とても優しい逢沢社長の声。

「大丈夫。結衣は何も心配することはないから」

松嶋くんの力強い言葉に、少しだけ不安な気持ちが和らいできた。

逢沢社長の目を見てうなずくと、彼はホッとした表情を浮かべた。

「俊美さんと会ったのは、この虹島なんだ」

「ここで、会ったんですか?」

「ああ。お互い別々に訪れていたんだけど、偶然出会ってね。偶然は重なるもので、学部は違えど大学も一緒だということを知って、東京へ帰ってからも時々会うようになった。俊美さんは、アルバイトをしながら学校の先生を目指して勉強をしている真面目な女性で、いつも穏やかで可愛らしくて素敵な人だったよ」

初めて聞く母の若い頃の話。褒められてばかりで少しだけくすぐったい。

「『恋愛なんてしている場合じゃない』と、告白しても断られていたんだが、最後には私のしつこさに負けたのか、やっと恋人同士になることができてね。その時は天にも昇る気持ちだったよ」

「結衣の頑固なところはお母さん譲りなのかな」

六年前の自分と同じようなことをしているな、と思っていたら松嶋くんも同じことを思っていたようだった。

思わず苦笑いで返すと、松嶋くんはニヤニヤと笑っていた。

「私も逢沢自動車に就職して、彼女も無事先生になって、交際も順調だった。もう少し自分に自信がついたら結婚しよう。そんな話もしていた矢先、彼女から別れを告げられた」

「母は、なんと言って別れを?」

その当時のことを思いだしたのだろう。逢沢社長は苦しそうに顔を歪めた。

「『会社を守って。従業員やその家族を守るのが、あなたの役目でしょう』そう言われたんだ。結衣ちゃんは、俊美さんが施設の出身だということは知っていたのかな?」

「はい。母の両親が亡くなってから、大学に入るまではそこで育ったと聞いています」

「そこには、会社の倒産が理由で家族がバラバラになったせいで入っている子どももいたらしい。俊美さんは、そんな子どもたちを私に増やしてほしくない。そう言って、私との別れを選択したんだ」

「逢沢社長のお母さんが、母に会いに来たことは知っていたんですか?」

「それは知らなかった。俊美さんも言ってくれなくて、私が知ったのは、彼女と別れて見合いをした翌日のことだった。母は彼女のことを良く言わなかったけど、私は俊美さんが、うちの会社や従業員たちのことを考えてくれていたのを知っていたから、母の言うことを一ミリたりとも信じていないよ」

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