君は太陽
きっとそれは、手切れ金のことを言っているのだろう。

返したかったけれど、結局返すことができずに受け取った状態になったと母から聞いている。

『あの人からすれば、私が受け取ったことになっているんでしょうね』と、母は寂しそうに笑っていたけれど、逢沢社長はちゃんと母の思いをわかってくれていたんだ。

そのことが、たまらなく嬉しい。

「ずっと、俊美さんが幸せでいてくれたらと心の中で願っていた。そして今日、蒼大くんに君のことを相談されたとき、頭の中が真っ白になったよ」

「どうして私が、母の娘だって思ったんですか?」

私の質問に、逢沢社長は泣きそうな顔をした。

「……付き合っていた頃に、話したことがあるんだ。『もし結婚して、女の子が産まれたら、結衣って名前を付けたい』とね」

「じゃあ、結衣の名付け親は逢沢さんってことなんですか?」

「ああ。そして、情けない話だが、俊美さんを手放したくなかった私は、別れを告げられる少し前に、彼女が妊娠すれば……なんてやましい気持ちで接した心当たりもあった」

いつの間にか頬にこぼれていた涙に気づいたのは、松嶋くんだった。

そっとハンカチを手渡され、そこでようやく私は自分の涙に気づいた。

「結衣ちゃん。君と俊美さんには、本当に申し訳ないことをした。母の失礼な行為といい、知らなかったとは言え、自分に娘がいることも知らず、二十八年ものうのうと生きてきていたのだから」

私は黙って首を横に振る。

そして、じっと逢沢社長の目を見つめた。

どこか不安そうな表情の逢沢社長に、ニッコリと微笑みかける。

「母が、私に初めて出生のことを語ってから亡くなるまで、一度も逢沢社長のことを悪くいったことはありませんでした。私があなたに迷惑を掛けたくない、そう思っていたのも、きっと母が逢沢社長を悪者として語らなかったからだと思います」

逢沢社長は黙ったまま、私の言葉に耳を傾けてくれる。

「亡くなる前に、母はこう言っていました。『あの人と結衣が幸せでいてくれるのが、私の幸せ』って」

逢沢社長の顔がクシャッと歪む。涙をこらえるようなその表情を見なかったふりをして、私は畳みかけた。

「逢沢社長。母と別れてから今まで、幸せでしたか?」

こらえきれなかった涙が、逢沢社長の右頬を一粒、伝うのが見えた。

逢沢社長は私の目を真っ直ぐ見て、凛とした声で返事をしてくれた。

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