君は太陽
「逢沢さん。結衣ね、昨日からずっと練習してたんですよ」

「もう、蒼大くんってば。余計なこと言わないで」

「いいじゃん。本当のことなんだから」

昨日、夕食を終えて部屋へ帰る途中に、逢沢社長のことを何て呼べばいいのか、蒼大くんに相談したら、蒼大くんはあっさりと『お父さんって呼んでみたらいいんじゃない?』と言ったのだった。

それから寝るまでの間、ぶつぶつと練習していたし、今日も朝からずっと蒼大くんを逢沢社長に見立てて練習していたけれど、本人にそれを言われるのは恥ずかしい。

真っ赤になって俯く私を見て、逢沢社長……もとい、父は温かい目を向けて微笑んでくれた。

「私こそ、結衣ちゃんの迷惑にならないのであれば、父親として接していければいいなと思っているよ。これからも、会ってくれるだろうか」

「はい。もちろん」

「じゃあ早速だけど、妻への土産を買うのを手伝ってくれないか?」

「わかりました」

元気よく返事をして父と売店に向かう私を、蒼大くんは手を振って見送ってくれた。






私たち三人は、飛行機を降りた後、タクシーで目的地へと直行していた。

「すまないが、少し寄り道をさせてもらってもいいかな」

父の言葉に、蒼大くんとふたりでうなずく。

「この辺で少し止まってもらってもいいですか」

タクシーの運転手にそう告げた父は、車を降りた。

数分後、戻ってきた父の手にあったのは、オレンジのガーベラの花束。

ハッとした表情を見せた私に、父は照れくさそうに微笑んだ。

「久しぶりに俊美さんに会うからね。少しくらいはかっこつけさせてもらえるかな」

母が一番大好きだったガーベラの花束を誇らしげに持つ父の姿は、見たことはないけれど、母と付き合っていた頃に戻っていたんじゃないかと思う。

しばらくして、車は母の眠る霊園へと到着した。

「結衣、俺、やっぱり着替えてきたほうがよかったかな?」

「大丈夫だよ。お母さんはそんなこと気にする人じゃないよ」

服装をしきりに気にする蒼大くんに、思わず笑みをこぼしてしまう。

「蒼大くんでも緊張することあるんだ」

「当たり前だろ。初めて彼女のお母さんに挨拶するんだから、緊張しない男なんていないよ」

他愛のない会話をしながら、母の眠る場所にたどり着くと、父が小さく息を吐いた。

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