君は太陽
――― 由恵ちゃんへ
ご無沙汰しています。元気にしていますか?
二十年近くも音信不通でいたのに、突然このような手紙を送る非礼をお許し下さい。
あれから二十年、私は娘とふたり、幸せに暮らしていました。
東京を離れてから、あの人の子どもを身ごもっていたのを知ったの。
産まない、なんていう選択肢は私の中にはなかったわ。
名前は結衣、といいます。優しくて可愛らしい娘に育ったけれど、少し引っ込み思案なところが心配でもあります。
これから先も、結衣と一緒に幸せに暮らしていくんだろうなと思っていたのだけれど、最近、私に病気が見つかりました。
あまり、余命も長くないようです。
幸いにも、結衣のことを安心してお願いできる方々に恵まれたので、私の不安は少しだけ解消されています。
だけど、ひとつだけ由恵ちゃんにお願いがあります。
近い将来、結衣が自分の出生のせいで、何かをあきらめたり、手放しそうになったとき、由恵ちゃんにたどり着くことがあったら、あの子の味方になってもらえないでしょうか。
あの子の将来を、私のせいでなくすことはしたくないのです。
勝手なお願いだということは重々承知していますが、もし、結衣が由恵ちゃんを頼ることがあったときには、力になってやって下さい。
どうぞ、お願いします。
「お母さん……」
思いがけない母の愛に、思わず涙があふれる。
「この手紙を受け取ってね、一度、俊美ちゃんに会いにこの街に来たことがあるの」
「母に会えたんですか?」
「ええ。自分の人生に後悔はないって笑顔で言ってたから、私も安心したわ。出来ればその後も交流したいと言ったのだけど、断られてしまって……。結局、葬儀に参加することも出来なかった」
蒼大くんのお父さんが涙を流すお母さんへハンカチを差し出し、言葉を続ける。
「妻から話を聞いて、逢沢くんに話そうかとも考えたが、それは三枝さんの遺志にそぐわない。そう思って、申し訳ないけれど、逢沢くんに告げることが出来なかったんだ。すまなかったね」
「いいんだよ。そんなことは気にしなくても」
ふたりは後継者同士、若い頃から切磋琢磨してきた仲間だと、蒼大くんから聞いていた。
今回のことは、ずっと気になっていたんだろう。父に黙っていたことは苦渋の決断だったのだろうと、蒼大くんのご両親の表情から見てとれた。
そのご両親の顔が、私に向いたとき、ふたりが笑顔になった。
「結衣ちゃんに直接会うこともしないほうがいいけれど、でも気になるし。そう思っていたときに、蒼大から別の会社に就職して修行したいって話があったのよ」