蓼科家物語 四女 桜和の話
春「ああ、それなら大丈夫だ。この前、回診に行った時に……
桜『連絡先もらったけど、スマホ家に置いてるんだった…』
って言ってたから。で、会う?」
春「…会う」
+×+×+×
病室に入ると桜和は読んでいた本を閉じて喜ぶ感じもなく平然に俺を迎えた。
桜「あ、久しぶり」
春「ん、元気か?」
桜「元気元気。もう立てるし、走れるし」
春「そっか……」
…俺はあまり話さないタイプの人間だから、桜和が話してくれないと会話がもたない。
桜「………」
春「………」
桜「……………」
春「……………」
桜「なんか、喋って」
春「桜和が喋って」
少し考えた風にして、急に「あーーーー」って声を出し始めた。
春「………」
桜「しゃべったよ、しゃべって」
話すこと……あるか?…聞きたいことしかない。
春「……桜和のこと知りたい」
桜「…この流れで、それ聞く?」
春「…うん。自己紹介して」
桜「…まあいいか。そのかわりそっちもしてね」
春「約束する」
小さくうなずくと、桜和は満足げに微笑んで、話し始めた。
桜「ハジメマシテ。私の名前は蓼科桜和です」
はじめましてがカタコトなのはあえて、突っ込まないことにした。
桜「6人姉妹の4番目です。好きな食べ物はプリン。嫌いな食べ物はかまぼこ。食べれない食べ物はえびです…以上です」
春「短いな…」
桜「自己紹介なんてあまりしないから、やり方がわかんないのー。小さい頃から入院ばかりしてるから、友達もそんないないし、うーん」
春「入院?なんか…病気なのか?」
桜「あれ?言ってなかったっけ?」
春「聞いてない。なんの病気?」
桜「喘息…と心臓病も持ってる」
春「………大丈夫なのか?」
桜「うん、最近は落ち着いてるし………もうすぐ退院できるし…学校にも…たまにだけど行ってる。だから暇なの」
春「じゃあ、たくさん会いに来る。なんかあったら呼んで。来れない時もたぶん、たくさんあるけど……会いたいって言ってくれたらすぐに会いに行く」
桜「っ…優しいね」
春「桜和限定。………言っとくけど、一目惚れ」
桜「えっ!……え……っと」
お、表情がこんなに変わるのは初めて見た。
春「答えはいつか聞きたいけど。まだ…いい。ゆっくり俺のこと、好きになって」
桜「……っ。待って。私、こういうの耐性ないから…なんか、恥ずかしい。…………頑張る」
春「うん」
その時、病室のドアが開いて、暖弥が入ってきた。
暖「あれ、春まだいたの?そろそろ面会終了時間だからなー」
春「ああ、今帰る。桜和、じゃあね」
桜「……うん。…あ、次いつ来る?」
春「1週間後とか」
暖「あー、それだと退院してる」
春「そっか…次、いつ会える?」
暖「桜和、若いんだからデートしてきなよ。デート。状態よかったら主治医が許可出してあげる」
桜「主治医って結局暖兄の許可必要…」
暖「あれ?デート行くのは前提なんだ」
暖弥が、桜和をからかうと、桜和は決まり悪そうにそっぽを向いた。
桜「…電話するっ……………から…まってて」
春「わかった」
どんどん小さくなっていく声に、比例するように赤くなっていく桜和が可愛くて、改めて、自分のものにしたいと思った。
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