蓼科家物語 四女 桜和の話
第2話
「真似してたわけじゃないけど…」
家に帰ると、右近が慌ただしく廊下を行き来していた。
春「右近、どうした?」
右「あ、若っ!おかえりなさい…って!今日は会長が退院するから退院祝いするって言ってたじゃないですか!早く準備してくださいよ!」
そんなの言ってたか?…………いや、聞いてない。
春「右近、それ俺に…」
右「言ってますよ!3日も前からずっと!なのに、若は仕事ばかりに集中しておれのはなしきいてくれなかったじゃないですかぁーー!」
最近は、桜和に会うための時間を作ろうと仕事をいつもの二倍のスピードでこなしていたから、右近の話をスルーしてたんだな。
うんうん、と1人で納得して頷いていると、気づいた時には、右近が「もう!早くしてくださいっ」って俺を引きずっていた。
春「……うちでするんじゃないの?退院祝い。隣町の方ですんの?」
右「隣町は隣町ですけど、今回は分家ではなく、旅館の宴会場借りたみたいですよ。…たしか、えーと…………花…花なんとか旅館って名前です。はいっじゃあ、着替えて!20時ちょうどにまたきますから、ちゃ!ん!と!正装して、身だしなみ整えてきてくださいね!!今日は分家もたくさん集まるんですから。じゃあ、千賀!あとよろしく」
千「はーい。若、カッコよくしてあげるからじっとしててねー」
俺の髪をいじり出した男、西城千賀(saijyou chika)は右近の弟で、なのに、顔は色っぽいし、体もどちらかというと細身で、右近とは正反対の人間である。
春「千賀、ここに出入りして大丈夫なのか?」
千「俺は大丈夫。柚夏はだめだけどねー」
千賀の彼女の名前は森下柚夏(morishita yuzuka)っていう若手女優で最近テレビでよく見るようになった。千賀はあまり彼女の話はしないけど、大切にしているのがよくわかる。
千「まあ、柚夏に心配かけたくないからあまり頻繁には来れないけど、こういうお祝いの席とかには店の方に依頼が来たってことにしておけば大丈夫だしね」
春「そうか」
俺と会話しつつも千賀は器用に手を動かす。
千「よし、下準備したから先着替えようか」
春「ああ」
千賀にされるがまま…数十分後には、すぐに出かけられる状態になった。