蓼科家物語 四女 桜和の話
右「千賀っ、終わった?」
千「うん、どう?」
千賀が俺の前からどくと、右近が思いっきり抱きしめてきた。
右「わっ、わがぁぁぁぁぁ!!!イケメンですっ!いつもですけれども今日はさらに超絶イケメンですっ!一生!一生、ついていきまずぅ!」
スキンヘッドのごつい男に抱きしめられても嬉しくないっての!
千「ほら、兄さん。時間でしょ?」
右「はっ!そうだった。若、いきましょう」
またまた引っ張られ、車に乗ると道中、右近の話が止むことはなかった。
右「聞いてください!旅館の名前思い出したんですよ。旅館 花謡(ryokan hanautai)です。なんか、女将と若女将が超絶美人らしくて、なかなか予約取れないみたいなんですけど、会長が美女好きって事で、急遽色々やって予約取れたそうです」
いろいろってなんだ、いろいろって。
右「あー、楽しみですね!そろそろ俺にも春が来ますかね!あ、俺の中の春は若だけ……ってことですかね!!」
すごい、いみわかんねえ。
全く話し終わる気配のない右近に少し意地悪な質問をしてみる。
春「……お前、許嫁いたよな?どうした?」
右「………はい?」
春「許嫁」
右「言わないと…だめですかね」
春「…いや、別にいいけど」
自分で話振っといてなんかかわいそうになって来た。
右「……はははは。まあ、聞いてください。俺、10年ぶりにあったんですよ、その子に。…なんて言われたと思います?」
春「……久しぶり…とか」
右「違います……俺っ、俺!」
春「…右近……?」
右「こんなゴリラ知らない!って……そう言われてっ!しかもその子、千賀に惚れて……俺のっ、俺の10年間をかえせーーーーーって感じになりました。…俺、ずっと好きだったのに………」
春「…聞いて、悪かった。ごめん。….お前はかっこいいよ、俺から見れば」
さりげなくフォローを入れて泣き出した右近を慰めてつもりが、右近はさらに泣きはじめる。
右「わっ、若っ!お、俺!もう、本当に一生若のものでずっからぁ」
そんな話ながら目的地に向かった。右近はずっと涙を流し続けていて、俺は少し引きつつも同情した。