蓼科家物語 四女 桜和の話
一人ひとりの前にご飯が運ばれてくる。俺のところにきたのは桃葉さんじゃなかったけど近くまで来たので横目でちらりとみる。
顔………青……
ふと、目があって軽く会釈すると、それに応じて桃葉さんも会釈をした。
立ち上がろうとして少しふらついた彼女を見ていてもたってもいられなくなった。
気になるんですけど……
全員にご飯が運ばれて乾杯を済ますと、あとは無礼講。組員たちは各々の酒を飲み交わし、中には一発芸を繰り広げる者もいる。
俺はトイレに行くふりをしてその場を抜け出し、桃葉さんを探した。
どこだ……?
検討もなく歩いていると、近くの部屋からガタンと大きな音が聞こえたので襖をゆっくりと開けた。
桃「………えっ……と」
春「すみません、大きな音が聞こえたので」
桃「ここ、従業員の部屋で…」
春「あなたが心配で、すみません、ストーカーみたいな真似をして…。暖弥からあなたのこと聞いてて…」
桃「暖弥から?…あ!あなたが春さん?」
春「はい、あの…唐突ですみませんが、今日具合悪くないですか?」
桃「いえ…大丈夫です」
冷静な顔でそう答えるけど、暖弥が言うように俺みたいな人なら……身内に詰め寄られると弱いはず…そして………
春「失礼します」
桃「え?」
具合悪い時は極端に不意打ちに弱くなる。
桃葉さんの手は、異常に冷たかった。
春「貧血…ですか」
桃「……」
ついでに、無言は肯定ってこと。
春「暖弥に連絡しますね」
桃「……しないで…ください」
桃葉さんの制止を無視して暖弥に電話をかけた。
暖『春?どうした?俺、もう病院出るけど』
春「桜和のことじゃない」
暖『……じゃあ何?』
春「桃葉さん、働いてて。顔色悪かったから。俺、宴会で今、旅館にいるから」
暖『……そこに桃葉いる?』
春「ああ、いるけど」
暖『かわって』
春「桃葉さん、暖弥が話したいって」
桃「……はい」
それから5分くらい話をして、時折桃葉さんが涙目になったから少し心配になったけど電話を俺に返してくれた時には柔らかい表情をしていて安心した。
春「解決?」
暖『ああ、奥の部屋で休むように言っといたから春、俺が帰るまで見ててくれない?』
春「ああ、全然いいよ」
暖『手、出したら殺すからな』
春「出さねえよ」
暖『じゃあ、よろしく』
春「ん」
春「桃葉さん、奥の部屋で休みましょう」
桃「はい」
暖弥から桃葉さんに話は伝わっていたようですんなりと俺と一緒に歩き出した。
桃「ご迷惑おかけしてすみません」
春「いえ、こちらこそ首を突っ込み過ぎてますよね、すみません」
長い廊下を歩いていると、通りかかった部屋の戸が開いて、これまた桜和にどこか似ている女の子が出てきた。
菫「お姉ちゃん、あれ、まさか……浮気?」
桃「違う」
菫「だよね、どちら様ですか?」
桃「暖弥の…友達」