蓼科家物語 四女 桜和の話
中庭に出て2つ並んでいるベンチの1つに2人で腰をかけた。
右近はそばで立ちながら待機している。
遠くを見ると、子供たちがサッカーをして遊んでいる。たぶん、ここに入院している子達だ。
他にも車椅子で散歩をしている女性や、花の絵を描いている子など中庭には人がいっぱい溢れていた。
「………」
春「……………」
「…私はやはり組はお前に継いでもらいたい。ゆくゆくは、会の方もな」
先に口を開いたのはじいさんの方だった。
俺はじいさんの推薦があるから、今、本家に住んでいて、仮の若頭として仕事しているが、実際にはまだそんな資格はない。
「ただな、私の弟の子供の息子……名前はなんと言ったかな…………りょうじゃないし、りゅうじゃないし…」
春「和葉のことですか?」
「そう、それだ。会の中ではそいつがお前の次に位置する後継者候補だ。なにしろ、弟の推薦が強くてな…。だから、今度の会合の時に春とそいつとを呼んで、どちらが後継者にふさわしいか全員に見極めさせる。候補はあと5人ほどいるんだが……まあ敵ではないだろう。
……お前は統率力もあるし、寛大さもあるし、強さも賢さも兼ね備えている。だからきっとお前が後継者なると私は信じているよ。
………というのは褒めすぎか?」
じいさんはおどけた顔で俺の顔を覗き込む。
春「まあ、嬉しいです。俺はまだ未熟者で、だからこそ本当の若頭になって、会長のそばで学びたいんです。……精進します」
「ああ、楽しみにしてるぞ」
じいさんは目線を遠くに向けた。俺とじいさんの間に心地よい沈黙が流れた。
ふと、遠くからサッカーボールが転がってくるのに気づいた。
それを追いかけてくる子供。まだそんなにボールさばきが上手ではなく、必死に追いかけている。
俺がやってくるボールを止めようと立ち上がった瞬間、目の前の子供が思いっきりズデーーン!!と転んだ。
「ふっうぇっうえええええええええん」
転がってきたボールを止めて、わきにかかえ、そのまま、転んで土まみれで泣きじゃくっている子供に近づき、目線を合わせた。
春「大丈夫か?」
その子の脇の下に手を入れて、立ち上がらせると、両膝から血が出ていた。そして、なおも大声をあげて泣いている。
春「男の子だろ?泣くな」
そんな決まり文句を言うと、やはりこの言葉は魔法の言葉なのかその子はぎゅっと口を結んで喚くのをやめた。涙はまだポロポロ出ているし、しゃっくりもつづいているが……
春「上出来だ。偉いな。ボールみんなに渡して、1回手当てしてもらいに行こうな」
「………ん」
男の子がコクリとうなづいたのを見て、抱き上げた。
右「若、俺が連れて行きますから、若はゆっくりなさってください」
と言って、右近が俺が抱えている子に手を伸ばすが、男の子は右近を一瞥すると、ぷいっと顔を背けた。
右「…………え……」
右近は負けじとその子を俺から引き剥がそうとするけど、一向に離れないし、またぐずり始めた。
「やぁだっ!」
男の子は右近の手をばしっと叩くと、俺の肩に顔を埋めた。
俺は右近に少し同情しながらも声をかけた。
春「と、いうことみたいだから、俺が送ってくる。会長のこと、よろしくな」
右「……はい」
俺は男の子を抱えて病院内に再び戻って言った。
中庭では一部始終を見ていたじいさんが大声をあげて笑っていて、右近はその様子と対照的に肩を下ろして、影を背負っていた。
右近はそばで立ちながら待機している。
遠くを見ると、子供たちがサッカーをして遊んでいる。たぶん、ここに入院している子達だ。
他にも車椅子で散歩をしている女性や、花の絵を描いている子など中庭には人がいっぱい溢れていた。
「………」
春「……………」
「…私はやはり組はお前に継いでもらいたい。ゆくゆくは、会の方もな」
先に口を開いたのはじいさんの方だった。
俺はじいさんの推薦があるから、今、本家に住んでいて、仮の若頭として仕事しているが、実際にはまだそんな資格はない。
「ただな、私の弟の子供の息子……名前はなんと言ったかな…………りょうじゃないし、りゅうじゃないし…」
春「和葉のことですか?」
「そう、それだ。会の中ではそいつがお前の次に位置する後継者候補だ。なにしろ、弟の推薦が強くてな…。だから、今度の会合の時に春とそいつとを呼んで、どちらが後継者にふさわしいか全員に見極めさせる。候補はあと5人ほどいるんだが……まあ敵ではないだろう。
……お前は統率力もあるし、寛大さもあるし、強さも賢さも兼ね備えている。だからきっとお前が後継者なると私は信じているよ。
………というのは褒めすぎか?」
じいさんはおどけた顔で俺の顔を覗き込む。
春「まあ、嬉しいです。俺はまだ未熟者で、だからこそ本当の若頭になって、会長のそばで学びたいんです。……精進します」
「ああ、楽しみにしてるぞ」
じいさんは目線を遠くに向けた。俺とじいさんの間に心地よい沈黙が流れた。
ふと、遠くからサッカーボールが転がってくるのに気づいた。
それを追いかけてくる子供。まだそんなにボールさばきが上手ではなく、必死に追いかけている。
俺がやってくるボールを止めようと立ち上がった瞬間、目の前の子供が思いっきりズデーーン!!と転んだ。
「ふっうぇっうえええええええええん」
転がってきたボールを止めて、わきにかかえ、そのまま、転んで土まみれで泣きじゃくっている子供に近づき、目線を合わせた。
春「大丈夫か?」
その子の脇の下に手を入れて、立ち上がらせると、両膝から血が出ていた。そして、なおも大声をあげて泣いている。
春「男の子だろ?泣くな」
そんな決まり文句を言うと、やはりこの言葉は魔法の言葉なのかその子はぎゅっと口を結んで喚くのをやめた。涙はまだポロポロ出ているし、しゃっくりもつづいているが……
春「上出来だ。偉いな。ボールみんなに渡して、1回手当てしてもらいに行こうな」
「………ん」
男の子がコクリとうなづいたのを見て、抱き上げた。
右「若、俺が連れて行きますから、若はゆっくりなさってください」
と言って、右近が俺が抱えている子に手を伸ばすが、男の子は右近を一瞥すると、ぷいっと顔を背けた。
右「…………え……」
右近は負けじとその子を俺から引き剥がそうとするけど、一向に離れないし、またぐずり始めた。
「やぁだっ!」
男の子は右近の手をばしっと叩くと、俺の肩に顔を埋めた。
俺は右近に少し同情しながらも声をかけた。
春「と、いうことみたいだから、俺が送ってくる。会長のこと、よろしくな」
右「……はい」
俺は男の子を抱えて病院内に再び戻って言った。
中庭では一部始終を見ていたじいさんが大声をあげて笑っていて、右近はその様子と対照的に肩を下ろして、影を背負っていた。