蓼科家物語 四女 桜和の話
電話を切ってから桜和が、じーっとこっちを見てくる。
春「なに?」
桜「……なんで名前知ってるの?」
春「暖弥が言ってた」
桜「暖兄と仲良いの?」
春「いや、会ったの2回目」
桜「そっか、まあ、なんていうか似てるもんね」
髪の毛の先を指でくるくるさせている。腰まで伸びたそれは目と同じ真っ黒だった。
春「なあ」
桜「…なに?」
春「名前、聞いていい?」
桜「え、知ってるでしょ。さっきから呼ばれてるけど」
春「……フルネーム」
桜「先に言ってよ」
春「…………一条春」
桜「春…ね。私は蓼科桜和。助けてくれてどうも!」
春「こっちこそ。助けてくれてありがと」
桜「………」
お礼を言うと、突然桜和が口を閉ざした。
春「…なに?」
なんか、顔固まってる。
桜「んー、あまり笑わない人って得だなって思って」
春「……意味わかんねえ。……そろそろ病室行くか、送る。立てる?」
桜「うん、だいじょう…………ぶ…じゃなかった」
桜和は立ち上がろうとして立ちくらみを起こすと、再びベッドに座った。
桜「んーー、ぐらぐらする」
春「首に、手、回して」
桜「………うん」
桜和は、遠慮がちに肩に手を置いたけど、それでもいいかと思い直して、優しく抱き上げた。
春「病室、どこ?」
桜「5階。502」
春「了解」
病室に向かう間も俺たちは話し続けた。
桜「なんか、会って2度目な感じしない。話しやすいね」
春「…俺も驚いてる。桜和も暖弥も話しやすい」
とか、
桜「結局病院には、なにしにきたの?」
春「じいさんの、お見舞い」
とか、
春「入院、いつからしてたんだ?」
桜「んー、あの日外でたら風邪ひいちゃってそれからずっと。そろそろ退院したい」
とか、まあいろいろ。