し ろ う さ ぎ
死ぬかもしれなかった彼がまだ傷付かなくてはならないのか……。
どうやっても世の中はこうも理不尽なんだろう……。
「……あっ……でしゃばってすみません。
……斎川君から聞きました。
小さい時に……男の人と家を出たと……」
「……ええ。
その通り……ですかね……」
「……それじゃあなんて今……っ」
「……ようやく……だったんです」
「……よう、やく……?」
病室と廊下を隔てる扉のその奥にいる斎川君を見つめるかのように視線を投じた。
その言葉は、あたしにはこれっぽっちも分からなくて……。
「十二年……かかりました。
大切なものを傷付けたくなくて」
「あの……それはどういう……」
「私の父親の借金を返すために……家を出たんです。
取り立ての頻度があまりに多くて……
二人に何かある前にと思い……表向きはその事情で別れを告げました」