し ろ う さ ぎ
病室への扉に手をかけて振り向けば、彼女は強張った顔で……でもしっかり頷いた。
……どうなるか。
あたしにも全く分からない。
それはこの先にいる斎川君に委ねられている。
「斎川君?
入るね」
「千鶴っ……?」
病室へと入ってきたあたしと、後ろから現れた女の人を認めてその声は途中で疑問を含ませた。
斎川君は退院の準備を整えている最中だったけど、その手を止めて何事かとあたしと彼女とを視線で何往復もしていた。
「斎川君……。
この方は……斎川君のお母さん」
好きな人を産んでくれた人を本人に紹介するのは何とも不思議な心境。
この人がいてくれたから……あたしは斎川君というただ一人の人に出会えた。
一方の斎川君はあたしの言葉の意味を少しずつ理解しては表情は険しくなっていく。