し ろ う さ ぎ
……そんなのあんたのお陰だなんて口が裂けても言ってやらない。
沸々と湧いてくる怒りを握り拳でやり過ごす。
「テメェがいねえと手当てが貰えねえんだよ。
こっちの事情を無視して学校も行かねえ。
勝手なことばっかして許されると思ってんのか」
母は二十歳の時に葵を産んだ。
幸せだった、昔は。
母がずっと傍にいてくれたから。
寂しくなんて……無かった。
でも、コイツの浮気が原因で母は次第に気に病んでしまい癌を発症。
元々、癌の家系っていうこともあったんだけど……
それなのにコイツは……癌になった母を見捨てて新しい女に逃げた。
必死に母を支えようとバイトはもちろんのこと親族に掛け合って治療費を懸命に絞り出した。
でも……母が助かることは……無かった。
そのために仕方無く、本当に不本意だけどコイツに親権が渡った。
「……勝手に?
笑わせないでよ。
アンタが勝手して母さんは死んだの」
コイツは……葵の事情なんて無視だ。
ましてや心の声なんて……届きやしない。