し ろ う さ ぎ

「父親に向かっていちいち口答えすんな!
……ったく。
アイツはどんなしつけしてたんだよ」



……家のことをなにもしてこなかったアンタに……


母に文句しかつけてこなかったアンタに……


母を貶す資格なんか、無い。

親権より金。

子供より新しい女。

そんな奴に……母の何も分からない。

分かったような口を利かれてたまるか。

どれだけ働いて……葵を必死に育ててくれたと思ってんの……。




「こんな父親に懐く子供がいると思う方が馬鹿」


「ごちゃごちゃ文句ばっかりうるせえんだよ!」



パチン!

そんな乾いた音がファミレス内に響く。


ジン……と痛みが頬に広がっていく。

周囲の視線が痛くて情けなくて……無力な自分が悔しくて……。


零れそうになった涙を、噛み締めた唇の痛みで堪える。




「所詮テメェもただのガキなんだよ。
一人じゃなんにも出来ねえんだ。
分かったらさっさと家に戻って来やがれ」




……大した給料も無いくせに。

母はいつからかそう嘆くようになった。

同棲することなくいきなり結婚したのが仇だった、と。


おまけにコイツの方の祖母もこんな感じだ。

自分がルール、息子第一、その嫁や子供はむしろ不要。

母はコイツの母親からも陰湿な文句をつけられて苦しんでいた。

実際、葵もその祖母から可愛がってもらった記憶なんて無い。

何もしてあげられなかった。

ただ、葵が産まれたことで母は苦しんだだけ……。
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