し ろ う さ ぎ
今更、親ぶって欲しくもない。
今更、アイツの言いなりになりたくない。
多分、向こうも聞き分けのない葵に呆れてんだろうけど。
「自分の子供を子供だと思わない親は……心配なんてしませんよ」
「……仲、あんまり良くないんだ?」
「あんまりっていうか、絶縁寸前ですよー?」
この年で何言ってるんだろうとおかしくて笑みが込み上げてくる。
呆れて向こうにものも言えないのはこっちだって同じなのに。
生きていくための力がまだ充分にない子供はあんな親に縛り付けられて都合良く生かされることしか出来ない。
「可愛がってくれた母親も死んで……
夏稀君も引っ越して……独りぼっち。
生きてる理由が……無くなったんです」
「だからって死ぬのもオレは違うと思うけどなー?」
「……っ」
「無くなったらまた……何回でも少しずつ見つけていけばいい。
葵が葵で生まれた人生はこれっきりだぞ?
死ぬなんて……絶対勿体無い」
「ポジティブですねー」
「だってさ……生きなきゃな。
辛いこととか哀しいこと全部引っくるめて。
それが人生ってもんだし?」
すごく素敵な考え方だと、思う。
葵には出来そうにもないなぁ……。
「よしっ。
そろそろ帰るかー」
「ですね」
ここにいても……会えるわけじゃない。
彼の言葉にそう気付かされ、歩き始めたその後を数歩離れて追う。
「あ。
そういや葵、今朝さー」
「今朝……?」
「そう。
横断歩道突っ切ろうとしてただろ?」
「……あぁー……」
「千鶴もちょっと前に同じことしようとしてて」
「……千鶴さんが……?」
「いやー、葵の顔さ。
あの時の千鶴と同じ顔だったなー」
うんうんと一人頷く彼。
……同じ顔、か。
「……葵のせい、ですね」
「どーなんだろな?
オレは千鶴じゃないし分かんねーけどさ」