特進科女子と普通科男子
あの様子だと、宮ちゃんに殴られてはいないだろう。

一先ず、ほっと胸を撫で下ろす。

それにしても、どうして相良君はここに?

「ーーおい、要」

相良君とは別の男の子の声がして、私はぴしっと身体を強ばらせた。

そして、はっと我に返る。

「宮ちゃん……!」

くたっと気を失って倒れている彼女に、どくどくと心臓が嫌な音を立てる。

反応のない彼女の側に駆け寄って、彼女の手を握り締めた。

「おいーー」

頭上から低い男性の声がして、ぽんっと肩を叩かれる。

「ひっ……!」

思わず、その手を振り払ってへたり込んだ。

目の前に、男の子がいる。眉を顰めて、こちらを睨んでいる。

男の子の存在を認識すると、条件反射のようにがたがたと震え出す身体。

触れられたところから、ぞわりと悪寒がして、全身が粟立つ。

(あ……駄目。宮ちゃんが大変なのに。それどころじゃないのに)

分かっていても、震えは治まってくれない。

「……大丈夫か?」

ーー大丈夫、分かってる。

男の子が全員怖い人ばかりじゃないってこと。

目の前の男の子が、心配してくれていること。

気を失った彼女を、優しく抱き留めてくれている彼が、怖い人なはずない。

(分かっているのに……!)

「美鈴、その子を保健室に」

背後から、相良君が男の子に声を掛けた。

私を気遣うように一瞥した男の子は「あぁ」と頷くと、軽々と彼女を抱き上げ、すたすたと校舎に入って行ってしまった。

それを見届けると、相良君は震える私の傍に膝をついた。

「もう、大丈夫」

……不思議だ。彼のことは、怖くないなんて。

「一緒に、保健室に行こうか」

そう言って、彼が立ち上がる頃、私は落ち着きを取り戻していた。

彼は無理に急かすことなく、震えながらぎこちなく歩く私に合わせて、ゆっくりと歩いてくれた。
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