特進科女子と普通科男子
それから彼女は、私が苛められるたびに助けてくれた。

けれど時々、酷く冷たい瞳をすることがあった。それは段々と、色を増して。

ーーある時、弾けた。

「宮ちゃんっ、もういいよ……もう止めて!」

彼女の手には、赤い血がついていた。

私に暴行しようとした、二つ上の先輩のもの。

馬乗りになって殴り続ける彼女の腕に必死にしがみついても、彼女はものともしない。

男の人の意識が遠のきそうになっても、彼女は歪に笑って、止まらない。

「止めて……宮ちゃんーーっ!」

彼女の拳が、私の頬を打った。

強引に彼女を押し倒したときに、体勢を崩した彼女の拳の前に、飛び出してしまったからだ。

無理な体勢から打ち込まれたはずなのに、重い衝撃と痛みで頭がぐらぐらと揺れる。

口の中がびりびりして、血の味が滲んだ。

「あ……由李っ!?そんな、ごめん!」

飛び上がるように驚いた顔をする彼女には、もうあの冷たさはなかった。

正気に返った彼女の瞳に、暖もりが戻る。

彼女は深い罪悪感を湛えて、ぎりっと唇を噛んだ。

その隙に、男の人は這い蹲って逃げ出した。

それを目敏く見つけて、さらに追いかけようとする彼女を引き止める。

「由李!」

「いや!行かないで!」

「離して!逃げられちゃう!!」

「いいの!宮ちゃんが、助けてくれたから!お願い……行かないで、怖かったよぉ」

「由李、ごめん、ごめんね!もう大丈夫……大丈夫だからぁ」

泣き怒りながら、私に上着を掛けてぎゅっと抱き締めてくれた。

私よりも小さな身体にしがみついて、その温もりに安心して。騒ぎを聞き付けた誰かに助けられるまで、二人で泣いた。
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