特進科女子と普通科男子
「あの……どうして謝るの?」

二人に尋ねたその時、ベッドから「ん……」と彼女の声がして振り向いた。

「宮ちゃん!」

目を開けた彼女は、まだ覚醒していないらしく、とろんとして暫く天井を見つめていた。

「宮ちゃん、おはよう。気分はどう?」

私を捉えた彼女の瞳が、丸く見開かれる。

「あ……由李ーーっい!」

勢い良く起き上がろうとした彼女だったが、呻きながらお腹を押さえ、ばふっと音を立てて、再びベッドに倒れ込んだ。

「どうしたの、宮ちゃん!?」

涙目の彼女は痛みを逃がすために、ふぅーふぅーと息を吐いて、お腹を摩っていた。

「お腹?お腹が痛いの?」

「……あ、はは。大丈夫だよ、由李ー」

「ほ、本当に?無理しないで」

彼女は「大丈夫、大丈夫」と、顔を顰めながら、ゆっくりと上体を起こした。

そして、私の背後のある一点に目をやると、びっくりしたように目を丸くした。

彼女の視線の先には、苦笑する相良君と、つんとすました顔の美鈴君。

彼女はすぐに気を失ったから、二人のことを説明しよう、と私は口を開いた。

「あのね、宮ちゃ、」

「ーー貴方ねぇ!」

彼女は今までに眠っていたとは思えないほど大きな声で、二人を睨みつけた。

彼らが普通科だから誤解しているのだと思って、私は彼女を宥めるように背中を撫でた。

「違うの、宮ちゃん。二人はね、」

「女の子の鳩尾を殴るなんて、最っ低よ!」

「そうなの、鳩尾をーー……え、鳩尾?」

ーーまさか。

私は、「嘘だよね?」という思いを込めて、そろりと二人に振り向いた。

相良君は困ったように曖昧に微笑んでいる。

そして、美鈴君は仕方なさそうに溜息を吐いて、ぶっきらぼうに「悪い」と謝罪を述べた。

……鳩尾、殴ったんだ。

(だから、さっき「ごめんなさい」って……)

彼女はもう、お腹を押さえる素振りはなかった。

きっと彼女の言う、"昔"の産物だろうことは想像に容易い。

……けれど。殴られたら痛いはず。

女の子同士でも痛いのに、それが男の子だったらーー

その痛みを想像して、無意識にお腹を摩ってしまう。
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