特進科女子と普通科男子
彼女の顔からは血の気が失せていて、俺は急いで保健室へと駆け込んだ。

騒ぎを聞きつけたのか、保険医は直ぐに病院に電話をかけた。

到着した救急車に半ば無理やり同乗し、彼女の細く小さな手を握り締めていた。

診察を受けた彼女は、過度なストレスによるものだと診断され、今は病院のベッドに寝かされている。

容態は落ち着いているようで、顔には僅かに赤みが戻っているように見えた。

「わ、私のせいだ……私が無理に、連れて行こうとしたから」

「落ち着け、宮日」

ーー逆に。今心配なのは、彼女の友人である宮日ちゃん。

男に囲まれている時は、強気な態度で暴れ回り、怪我をしても最後まで泣いたりしていなかったのに。

……というか、最後は美鈴と組んで、相手が不憫なほど華麗に返り討ちにしていた。

それが、今は。目を赤くして、はらはらと涙を流している。

「由李が、貴方達にお礼したいって……私も、お礼言ってなかった、から」

声を詰まらせ、ごしごしと目を擦って俯く彼女の言葉に、二人があそこにいた理由を知る。

そんな彼女の背中を、美鈴がぎこちない動きで撫でていた。

(おー……珍しい)

普段大人びた美鈴が、彼女の前ではどこか不器用で。

女の子に触れるのを戸惑う姿なんて、初めて見たかもしれない。

「おい、擦んな」

「うっ……ぐす」

彼女の両手を掴んで、目を擦るのを止める美鈴。

純粋に彼女を労るような心配そうな表情が、これまたやはり珍しい。

今まで彼は、落ち着いた大人の女性ばかりだった。

彼が大人びているから、自然とそうなっていたんだろうけど。

だから、強気で少し幼さの残る雰囲気の宮日ちゃんとの組み合わせは、本当に新鮮だ。

「二人ってどういう関係?」

ぐすっと鼻を啜った彼女が、驚いたように顔を上げた。

それから、少し気まづそうにちらちらと美鈴のほうを見る。

(……分かりやすい子だなぁ)

美鈴はその視線に気付いているのか、いないのかーーなんて。

「ただの、昔の知り合い」

「……ふーん。あ、それともう一つ。宮日ちゃんって、なんで喧嘩好きなの?二重人格とか?」

突拍子もなく無遠慮な質問をしても、彼女は驚きはしなかった。

ベッドで眠る由李ちゃんを優しく見つめて、そっと手を重ねた。

「そんな、大層なものじゃないよ」

そして彼女は、覚悟を決めたように話し出した。

「ちょっと、暴走族の総長やってただけ」
< 36 / 49 >

この作品をシェア

pagetop