特進科女子と普通科男子

彼は二人組に声を掛けると、固まったままの私の肩を後ろに引いて、入れ替わるようにして前に出た。

(ーーえ？)

男の子に触れられたのに、拒絶反応が出なかったことよりも。

その時、そっと耳打ちされた言葉に驚いて目を見開いた。

ばっと顔を上げると、彼は何食わぬ顔で、親しげに二人組の男の子の肩を抱いていた。

そして、さっさと昇降口に向かって歩きだしてしまう。

｢何だよ相良ー、最近早いじゃん｣

｢まぁな。それより一限さぼって屋上行かね？｣

｢ぎゃはは！相良君は悪い子ですねぇ｣

三人の後ろ姿を見送って、ぽつんと取り残された。

(……相良、君)

心の中で彼の名前を唱えたら、応えるように彼が振り向いた。

胸に抱えた鞄を、ぎゅっと強く抱き締める。

そんな私に、彼は片方の口角を上げて小さく笑った。

まるで、悪戯に成功した少年みたいに。

｢助けて、くれた……？｣

信じられない思いで、唇に指を当てて直感を口にした。

ーー"大丈夫。"

もう前を向いてしまった彼の声は、苦手な男の子のものだったのに。

(なんで……)

彼の声だけは、どこか特別で。

ーーとくん。

甘く柔らかい何かが音を立てて、私の心に落ちた。