とある男の人生の選択
プロローグ ~人生の最期~
俺、神崎達矢(かんざきたつや)は今、この真夏の真っ昼間にとある雑居ビルの屋上にいる。
屋上にいる目的はたった一つ。
自殺するためだ。
俺の21年間の人生は実にろくなものではなかった。
苦痛な子供時代、普通の家庭と真逆の青春時代、
冷ややかな大人達に囲まれた社会人生活。
『生きる』ということがこんなにも辛いのなら、
もう、生きていたくない。
死んで楽になりたい。
今の俺の望みはたったそれだけだった。
どうせ死ぬんだ。
最後に一つだけやってみたかったをやってみる。
俺はスーツの右ポケットから煙草を取り出し口にくわえる。そしてライターで煙草の先に火を向け大きく息を吸い込んだ。
「ゴホッ!ゴホッ!」
初めての煙草に大きくむせ、慌てて煙草を口から外す。
「ゴホッ…くそマズいなこれ…」
呼吸を整えてから俺は、煙草の煙を見つめてみた。今日は雲ひとつない青空で、風も全くない。煙草の煙は先から真っ直ぐに上へ上へとのぼっている。
「…………」
もう一度煙草を吸おうと口に近づけてみたが止めた。どうせまたむせてしまう。それに慣れたこところで意味はない。もう俺は死ぬのだから。
「やっぱり…つまんないな…」
そう言って煙草を地面に捨てて靴底で踏みつけ火を消した。そして、何の迷いもなくビルの縁に立つ。
「無駄に良い天気だな…」
俺はこのビルから町を見下ろした。周りにもビルがいくつか建っている。それらの下には大きな道路があり、様々な車が行き交い、人々が忙しなく歩く。彼らは何を思い、何を悩み、今どんな気持ちなのか。
きっと俺とは違い幸せで楽しい人生を謳歌しているのだろう。そう考えると胸が苦しい。
運命は不平等だ。自分を産む親を選べず、自分に決定権などない環境で育ち、そのまま社会人になると突然周囲の人間は俺に様々な決断を迫ってくる。
もううんざりだ…。
「…はぁ…それにしても今日の天気は一段と良いな…」
まるで今の俺のすがすがしい気持ちを反映しているようだ。
俺はズボンの後ろポケットから財布を取り出して、一枚のふやけた写真を手に取る。そこには一人の女性がこっちに向かって手を振り笑いかけている。黒髪ロングヘアーの綺麗顔立ちながら、子供らしさが残る可愛い笑顔。
そんな彼女もだいぶ前にこの世にはいない。
今まで何度この写真の前で涙したことか。その涙で写真は不自然にゆがんでいる。
でも、今は不思議と涙は出ない。それどころか嬉しさがこみ上げる。
「…俺……今からそっちに行くよ…」
俺は写真を握りしめ、ビルの縁から空へと飛び出した。
世界が逆さまになり頭に強い衝撃が走る。それと同時に女性の悲鳴が響いた。
「大丈夫ですか!?声聞こえますか!?」
「ダメだ!息していない!救急車!」
周りの人達が俺を助けようと騒いでいる。そしてかすかな視界が血で赤くなった。
『……さお…り……また…会いたいな……』
午後12時36分。
俺、神崎達矢は息絶えた。
屋上にいる目的はたった一つ。
自殺するためだ。
俺の21年間の人生は実にろくなものではなかった。
苦痛な子供時代、普通の家庭と真逆の青春時代、
冷ややかな大人達に囲まれた社会人生活。
『生きる』ということがこんなにも辛いのなら、
もう、生きていたくない。
死んで楽になりたい。
今の俺の望みはたったそれだけだった。
どうせ死ぬんだ。
最後に一つだけやってみたかったをやってみる。
俺はスーツの右ポケットから煙草を取り出し口にくわえる。そしてライターで煙草の先に火を向け大きく息を吸い込んだ。
「ゴホッ!ゴホッ!」
初めての煙草に大きくむせ、慌てて煙草を口から外す。
「ゴホッ…くそマズいなこれ…」
呼吸を整えてから俺は、煙草の煙を見つめてみた。今日は雲ひとつない青空で、風も全くない。煙草の煙は先から真っ直ぐに上へ上へとのぼっている。
「…………」
もう一度煙草を吸おうと口に近づけてみたが止めた。どうせまたむせてしまう。それに慣れたこところで意味はない。もう俺は死ぬのだから。
「やっぱり…つまんないな…」
そう言って煙草を地面に捨てて靴底で踏みつけ火を消した。そして、何の迷いもなくビルの縁に立つ。
「無駄に良い天気だな…」
俺はこのビルから町を見下ろした。周りにもビルがいくつか建っている。それらの下には大きな道路があり、様々な車が行き交い、人々が忙しなく歩く。彼らは何を思い、何を悩み、今どんな気持ちなのか。
きっと俺とは違い幸せで楽しい人生を謳歌しているのだろう。そう考えると胸が苦しい。
運命は不平等だ。自分を産む親を選べず、自分に決定権などない環境で育ち、そのまま社会人になると突然周囲の人間は俺に様々な決断を迫ってくる。
もううんざりだ…。
「…はぁ…それにしても今日の天気は一段と良いな…」
まるで今の俺のすがすがしい気持ちを反映しているようだ。
俺はズボンの後ろポケットから財布を取り出して、一枚のふやけた写真を手に取る。そこには一人の女性がこっちに向かって手を振り笑いかけている。黒髪ロングヘアーの綺麗顔立ちながら、子供らしさが残る可愛い笑顔。
そんな彼女もだいぶ前にこの世にはいない。
今まで何度この写真の前で涙したことか。その涙で写真は不自然にゆがんでいる。
でも、今は不思議と涙は出ない。それどころか嬉しさがこみ上げる。
「…俺……今からそっちに行くよ…」
俺は写真を握りしめ、ビルの縁から空へと飛び出した。
世界が逆さまになり頭に強い衝撃が走る。それと同時に女性の悲鳴が響いた。
「大丈夫ですか!?声聞こえますか!?」
「ダメだ!息していない!救急車!」
周りの人達が俺を助けようと騒いでいる。そしてかすかな視界が血で赤くなった。
『……さお…り……また…会いたいな……』
午後12時36分。
俺、神崎達矢は息絶えた。