銀髪の王太子は訳あり令嬢に愛を乞う ー 今宵、お前を必ず奪い返す
彼女の自尊心をヘシ折るような言葉をわざと投げると、ヘソを曲げたのか、無言でベンチから立ち上がり、ここから立ち去ろうとする。

そんな彼女を追いかけ、並んで歩いた。

また誰かに襲われては困る。

「ついて来ないで!」

前を見据えたままセシルは文句を言う。

「たまたま行く方向が同じだけだ」

にこやかにそう答えると、彼女はもう何も言わず、俺を振り切ろうと早足で歩いた。

だが、俺がよぼよぼの老人ならともかく、引き離せるわけがない。

どこへ行くのかと思ったら、彼女は果物屋で沢山のリンゴを買った。

袋にいっぱい入ったリンゴを彼女の手から奪う。

「こんな重い物ずっと運ぶなんて無理だ」

リンゴの袋を持つと、セシルは俺をじっとりと見て言った。

「こんなの慣れてるわ」

その発言におや?と思う。

公爵令嬢であれ、男爵令嬢であれ、こんな重い物、持ち運ぶはずがない。
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