銀髪の王太子は訳あり令嬢に愛を乞う ー 今宵、お前を必ず奪い返す
「困った女」

そのどこか哀しげな表情ひとつで、彼女は俺の心を捕らえる。

本人にはその気がなくとも、その真紅の綺麗な双眸は俺を引きつけて離さない。

レノックス公爵夫妻が亡くなってから、彼女は地獄を味わい、ずっと苦しんできた。

塔に閉じ込められ、兵にも追われたことのある俺には彼女の気持ちがよくわかる。

どれだけ絶望に襲われただろう。

同情?

共感?

いや……違うな。

俺が彼女に抱く気持ちは、もうそれ以上になっている。

どんな形であれ、こうしてセシルと再会出来たのは運命だと思う。

彼女が今は男爵家のメイドをしていると聞いて驚いた。

重い荷物を持っても平気そうな顔をしていたのも、男爵に雇われる前に、重労働をして生計を立てていたからじゃないだろうか?

セシルの手は令嬢にしては荒れている。

だが、もう辛い思いをして働く必要はないし、逃げ回る必要はない。

彼女を元の身分に戻してやろう。

男爵令嬢に扮していることについても、もちろん不問にする。

元々父の我儘が原因なのだから、コンラッド男爵を罰する気はない。
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