銀髪の王太子は訳あり令嬢に愛を乞う ー 今宵、お前を必ず奪い返す
まるで悪夢を見ているようだ。

両手で頭を抱える私の肩をクレアが抱く。

「どうか……どうか気を強く持って下さい。セシル様も近衛兵に捕まれば投獄されるか、処刑されてしまうかもしれません。まだ近くに兵の姿はありませんが、早く逃げましょう」

クレアは辺りをキョロキョロ見回しながら声を潜めた。

優しかった父が国王に処刑された。

母も焼身自殺して……。

私の最愛の人達がこの世からいなくなってしまった。

ショックですぐには動けない。

身体の感覚がなくなっている。

この無残な屋敷を見てもまだ信じられなかった。

これは現実じゃない。

きっと悪い夢を見ているのよ。

そう自分に言い聞かせなくては気が狂いそうだった。

「これは夢……だわ」

ぼんやりしながら力なく呟く。

クレアが何か言っているが、次第に耳鳴りがしてきてよく聞こえなかった。
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