銀髪の王太子は訳あり令嬢に愛を乞う ー 今宵、お前を必ず奪い返す
彼は流石というか、こんなに人がいるのに、いつもと変わらない。

とてもリラックスした様子で馬車に乗っている。

……この人の辞書には、『驚く』とか『緊張』とかいう文字はないのだろうか?

そんな彼を無性に驚かせたくなった。

みんなに手を振りながら出来るだけ平静を装い、にこやかにジェイに告げた。

「私のお腹の中に赤ちゃんがいるんですって」

「え?」

しばらく私を見たまま固まるジェイ。

そんな彼を見て嬉しくなる。

「だから、私のお腹に赤ちゃんが……」

もう一度言おうとしたら、彼が私を背後からそっと抱き締めてきた。

「凄く嬉しいよ。ありがとう」

ジェイの手が私のお腹に触れる。

その手が温かくて、心が温かくなった。

パレードの間、彼はずっと私のお腹を撫でていた。

そんな彼がとても愛おしい。
< 262 / 263 >

この作品をシェア

pagetop