銀髪の王太子は訳あり令嬢に愛を乞う ー 今宵、お前を必ず奪い返す
貴族の子弟子女の中でも楽器を買って習える者なんてそうはいない。

王族かそれに近い金持ち貴族くらいだろう。

楽器を作る職人の数が少なく、その楽器を奏でる音楽家の数も少ないからだ。

「最近は練習しておりませんが、私もヴァイオリンを少し習っておりました」

私を庇ったシャーロットまで馬鹿にされるのが許せなくて、ニコリと笑みを浮かべて答える。

「ほお、それは是非ふたりの音色を聞いてみたいものだな」

陛下は目を細め微笑した。

ヴァイオリンは大好きだったけど、五年間まともな練習をしていないのに、それを陛下に聴かせるなんて失礼だ。

だが、ここで断れば、興醒めというもの……。

仕方なく席を立つと、楽団のところに足を運び、ヴァイオリン奏者に楽器を借りる。

そして、調律の音を試しに出してみた。

不思議なことに身体がどうすればいいか覚えている。
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