私たちは大人になった
アウトレット近くの道はかなり渋滞していた。今話題のスポット、しかも休日なのだなら仕方ない。
なかなか進まぬ列に、誰しも少しはイライラするものだけど、安川君は上機嫌でハンドルを握り、ずっと他愛も無い話をしていた。つい不思議に思って、尋ねる。
「イライラしない?」
「しても仕方ないし。折角だから、楽しい話してた方がいいだろ」
「楽しい話って?」
「過去の恋愛の失敗談とか?」
「全然楽しくないし。しかも、私は安川君の失敗よく知ってるし」
「痛いところを突くなよ~」
デートだという割にデートらしからぬ話題を振ってくる。お陰で、私はさっきからずっと肩の力が抜けていた。
そういえば、一年前に別れた恋人とは渋滞に捕まる度に喧嘩していたことを思い出す。普段は特別短気という訳ではないのに、渋滞では突然スイッチが入ったように不機嫌になる。それが別れた直接の原因ではないが、そういう小さなことが積もって最後は別れに至ったのだろうと思う。
彼と付き合っていた三年間。
私たちは、お互いに不満を抱えていたのだと思う。具体的にどこがとははっきり言えないけれど、何となく合わないと感じていた。
それでも、もういい年をした大人なんだからと自分に言い聞かせていた。それは、彼も同じだったかも知れない。完璧な人間なんていないのだから、そのくらい許せないようではダメだと。
『俺たち、お互いに我慢してるよな』
そう彼に別れを切り出された時は、妙に納得したのを覚えている。許すことと単に我慢することは違うのだ。
「なんだ、スカートじゃないのか~」
「今頃気づいたの?」
「いや、車乗ってきた時から薄々気づいてたけどさ。一応残念がっておこうかと」
本当は、スカートを履こうと思った。
誰かと初めてデートというシチュエーションは4年ぶりで、張り切ってオシャレしている自分が妙に恥ずかしくなって、きれいめなテーパードパンツにニットを合わせて、上からダウンジャケットを羽織っただけのシンプルコーデに変えたのだ。
リクエスト通りにスカートを履いていけるような素直さを今の私は持ち合わせていない。
「まあ、留美はそういうやつだよ」
「すみませんね、可愛げがなくて」
「そうじゃなくて。多分迷った末にそうしなかったんだろうなっていうのが、分かるから」
もしや、エスパーなの!?という心の叫びを押し込め、ぷっくり頬を膨らませて黙り込むことにした。
やりにくい。昔から知っている仲間だから、私の性格はすっかりお見通しらしい。
「照れてる?かーわい」
「うっさい!!」
怒ってみたものの、安川君はニヤニヤとうれしそうにこちらを見ていて。
頬がほんのり熱くなるのはどうやら隠せそうにない。